これまで2回(「弁護士」って?/「弁護士会」って?)にわたって弁護士と弁護士会のことをについてお話してきました。今回は、関連したテーマとして「弁護士自治」を取り上げてみたいと思います。
前回「弁護士会」の記事の最後のところで、弁護士会には弁護士不祥事に対する懲戒処分を行えるなど弁護士会の指導監督権のことに触れました。
時々マスコミでも報道されますが、弁護士会は所属弁護士や弁護士法人に対して、「懲戒処分」を下すことができます。弁護士に対する懲戒処分をすることができるのは弁護士会だけです。これを「弁護士自治」といいます。弁護士自治の内容はこれだけではないのですが、懲戒処分権を弁護士会だけが持っているというのは重要な要素です。
この弁護士会だけが弁護士に対する懲戒処分権を持っているということはどういうことでしょうか?
これは、弁護士会以外の第三者、たとえば、司法の世界ですから、最高裁判所とか法務省などという官庁や国会(裁判官を罷免するには国会の弾劾裁判所の手続きが必要ですよね)には弁護士に対する処分権限はないということを意味しています。
同じ士業でも、司法書士は法務大臣が監督権者です。行政書士は都道府県知事です。医師は、厚生労働省における医道審議会に免許の取り消しや停止などの処分権があります。が、司法書士会や行政書士会、医師会にはその権限はないのです。
どうしてこのような構造になっていると思いますか?
弁護士自治は、戦後制定された現在の弁護士法において認められたものと解されています。弁護士法第1条に弁護士の使命が規定されていることは第1回目にお話ししましたが、その使命、すなわち、基本的人権を擁護し社会正義を実現するという使命を全うするために国家権力や社会権力からの独立が要請されているということです。
この説明では、ピンときませんか?
具体的例を挙げると、一番わかりやすい例は刑事事件の弁護人としての活動です。訴追者は検察官です。判断者は裁判官です。刑事弁護人というのは、社会的な非難を浴びた被告人(有罪の場合ですが)を手続的に守る役割があります。さらに無罪を主張する被告人のためには検察官の主張を徹底的に争う必要があります。その弁護士の懲戒権を検察官ひいては法務省が持っていたら、又は、裁判官ひいては最高裁判所が持っていたら、その弁護人はその信ずるところに従って十分な弁護活動ができるでしょうか。
また、弁護士は、国や自治体を相手とする行政訴訟や民事訴訟の代理人にもなります。薬害や公害の被害者が国や製薬会社を相手にして訴訟をするとき、被告国となる法務省に弁護士の懲戒権があったら、代理人弁護士は依頼者のために十全な活動ができるでしょうか。
弁護士自治を有する弁護士会は、独善的になってはもちろんいけないわけですが、仮に依頼者の行為が社会的多数から非難される場合でもその権利を守るための弁護士の活動を支えていく必要があるのです。
ここでお話ししたことは、弁護士は何でも自由にやって良いということでは全くありません。弁護士は職務基本規程によってその行動を自ら律していますし、それに反すれば、弁護士会から懲戒処分を受けることになります。