前回お話しした「任意整理」は、あくまで「弁済計画を見直す」という債務整理の方法です。利息や損害金(場合によっては元本)が減額される場合もありますが、基本的には「借りたものは返す」という発想です。
これに対し破産は、債務者の下に残っている財産があれば分配し(配当)、払いきれなかった分は免除してもらう(免責)という手続きです。ただ、配当できる財産があったとしても債権総額の数パーセント程度ということが一般的ですし、特に個人が破産する場合は配当する財産がないケースが大半です。したがって、実際には「残債務は支払わない手続」という方が実態に近いと思います。
以下では、破産申し立てをするうえでよく問題となるポイントを説明します。
1 債権者について
(1) 裁判所に破産申立てをする場合、「債権者一覧表」を提出しなければなりません(破産法20条2項)。この債権者一覧表に記載していない債権には免責の効果が及ばないため(破産法253条1項6号)、すべての債権者を漏れなく債権者一覧表に記載する必要があります。
ここでよく見落としがちなのが、親族・知人と連帯保証人です。
申立てをする弁護士はまず相談者(債務者)からの話を聞いて、どのような債権者がいるかを把握します。さらに相談者が持参した請求書・督促状や、通帳の取引履歴等から漏れがないかを確認します。
しかし、親族・知人は借用証を作っていないことが多く、相談者も「借りている」という意識が薄いので、聴き取りの際に出てこないことが多いです。請求や督促が書面でくることも稀ですし、返済も口座振込ではなく手渡ししている等で通帳を見てもわかりません。ですから弁護士の方も気づかないことがあります。
連帯保証人は債務者に対する求償権があるので破産手続に参加できます(破産法104条3項)。しかし債務者から見ると連帯保証人からお金を借りているわけではないので、聴き取りの際にはまず出てきません。また、連帯保証人からは請求書も督促も来ませんし、連帯保証人に返済しているわけでもないのでお金の動きも全くありません。したがって、見落とすことが多いのです。
(2) 以上は「うっかり見落とす」というパターンでしたが、一部の債権者を意図的に除外することも問題です。よくあるのは「親族や知人は債権者に含めないでほしい」という要望です。迷惑をかけたくないとか、破産すると通知が行くので自分が破産したことがわかってしまう等の理由で、親族や知人を債権者から除外して欲しいという要望はときどきあります。
しかし特定の債権者を破産・免責の対象から除くことはできません。破産手続は法的な手続であり公平に行われる必要があります。特に「免責」は、法律の力で、債権者の意思にかかわらず残りの債務を帳消しにするという強力な効果があるため、公平性が強く求められます。債務者の都合で、この債権者には返すが、この債権者には返さない、という選択をすることはできないのです。
2 一部債権者への弁済
破産申立ての準備(一般的には介入通知送付)後はすべての債権者への支払を止める必要があります。破産手続では、債務者に財産があれば、債権額に応じて債権者に分配されます。したがって、一部の債権者に支払うお金があるのであれば、それはとっておいて後で全債権者に配当すべきなのです。
この点でも「うっかり」と「わざと」の2つのパターンがあります。
「うっかり」型の典型は、支払いを口座引き落としにしていて、引き落としを止める手続きを忘れた、あるいは手続きが間に合わなかった、というケースです。こういう場合は、債権者にその旨を説明すればたいていは戻ってきます。
他方、相手に迷惑をかけたくない、相手との信頼関係を損ないたくない等の理由で意図的に支払いを継続しているケースもときどきあります。こういう場合も先方に事情を説明して返還を求めますが、応じてもらえない場合は破産管財人が弁済(支払)を取り消し(否認)、財産を取り戻すことになります。
3 免責不許可事由、非免責債権
(1) 破産手続を行う最大の目的は免責を得ることですが、免責不許可事由があると免責が認められない可能性があります。免責不許可事由は破産法252条1項に列挙されていますが、実際に問題になるケースのほとんどは4号の「浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。」です。一般的には「浪費」といわれ、具体的には以下のようなものがあります。
ア 飲食
イ 風俗
ウ 買物
エ 旅行
オ パチンコ
カ 競馬・競輪・競艇など
キ 麻雀
ク 株式投資・商品先物取引・FX(外国為替証拠金取引)など
ケ その他
よくあるケースは、キャバクラなどで散財した(アまたはイ)、カードで高額のブランド服やカバンを買いすぎた(ウ)などです。それからギャンブル(オ、カ)や宝くじ(ケ)も比較的よく見かけます。
ただ、上記アからケに該当しても、「その他一切の事情」を考慮して免責を認めるという裁量免責(破産法252条2項)があり、実際にはほとんどのケースで免責が認められています。上記の①から⑨に心当たりがあっても心配せず、まずは弁護士に相談してみてください。
(2) ただし、免責を許可されても免責されない債権が存在します。これを「非免責債権」と言います(破産法253条1項)。
具体的には以下のようなものがあります。
① 税金等
② 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
③ 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命・身体を害する不法行為
に基づく損害賠償請求権
④ 扶養義務等に係る請求権(婚姻費用、養育費など)
⑤ 雇用関係に基づく使用人の請求権等
⑥ 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権
⑦ 罰金等
4 管財手続と同時廃止
破産手続は、裁判所が選任した破産管財人(弁護士)が、債権を調査し、債務者の財産を換価(現金化)し、場合によっては取戻し(否認)、債権者に配当するとともに、免責不許可事由の有無や裁量免責の可否を調査します。このような手続きを管財手続といいます。
しかし、債務者に財産がないケースも少なくありません。また、否認すべき行為や免責不許可事由がないこともあります。この場合、管財人がやるべき仕事はほとんどないので、管財人を選任しない簡易な手続である「同時廃止」で処理することになります。
管財手続となる場合、管財人の報酬として20万円を納める必要がありますが、同時廃止ではこの20万円は不要です。したがって、申し立てる側にとっては管財手続となるか同時廃止となるかは大きな違いがあります。
もう一つ、自由財産の拡張との関係でも注意が必要です。債務者の持っている財産が財産の種類ごとに20万円以下(現金は33万円以下)の場合、東京地裁の運用基準では換価(現金化)しないこととされています。ただ、上記を超える財産があっても、諸般の事情を考慮して換価しないという処理をすることができます。これを自由財産の拡張といいます(破産法34条4項)。この自由財産の拡張をするかどうかの決定は破産管財人の意見を聴かなければならないとされています(同条5項)。
したがって、自由財産の拡張を希望する場合は管財手続を選択する必要があります。同時廃止では自由財産の拡張はできないので注意が必要です。
以上