■「返済計画を見直す」(債務整理②任意整理)-弁護士井上

債務整理①では「介入通知」を出すところまでお話ししました。

弁護士から介入通知を受けると、債権者からの督促はほぼ止まります(督促が続くようであれば個別に警告します)。そして、各債権者は弁護士に対し債権の情報を提供します(債権届け出)。

ここでは、単なる債権額にとどまらず、その内訳(元本、利息、遅延損害金)や、債権の種類(貸付金(キャッシング)なのか立替金(ショッピング)なのか)、借入の始期・終期や返済の状況(取引履歴)、保証人の有無等の情報が開示されます。

この情報をもとに、弁護士は、残債務が一体いくらなのかを確認します。この取引履歴を確認する過程で、いわゆる過払い金が見つかることもあります。

この債権調査には通常2~3か月かかります。さらに、当初開示された情報が不十分だと足りない情報の追加開示を要求することもあり、この場合にはもう少し時間がかかります。

債権調査が完了し、残債務が例えばA社50万円、B社100万円、C社20万円、Ⅾ社10万円、合計180万円ということが確定したら、ここで依頼者の方と方針について協議します。返済に回すお金が全くないような場合は別ですが、通常は、任意整理をする場合の月々の返済額の目安を算出し、それを毎月払えるかどうかを確認します。払えそうであれば任意整理の具体的計画を立てますが、難しいようであれば破産せざるを得ないと判断します。

任意整理の基本は返済計画の見直し(リスケジュール)です。支払回数を増やし、月々の支払額を抑えられるように調整します。ただ、あまり長期間の分割は応じない債権者も多いですし、10年も20年も支払い続けるというのは非現実的です。そこで、通常は36回(3年)を基本に、長くても60回(5年)程度で完済できるかを検討します。上記の例だと、合計180万円を36回で割った5万円を毎月返済するというのを基本に検討します。

ただ、すべての債権者が36回払いに応じてくれるわけではありません。債権者によっては、最低月3000円とか5000円という基準があるところもあります。例えばⅮ社(10万円)は36回払いだと毎月2777円ですが、Ⅾ社の最低基準が月5000円だとすると20回以内に収める必要があります。このような場合、他の債権者の月々の支払額を調整して全体として予算の範囲に収めるように調整します。

さらに、いろいろ調整してもどうしても予算をオーバーしてしまう場合は、特に金額の大きい債権者について60回以上の分割も検討します。ただし、これには応じない債権者も多く、あまり期待しない方がよいでしょう。

なお、任意整理の際に、利息や遅延損害金のカット、場合によっては元本の減額を提案することもあります(そういうことが当然できるかのような広告も見かけます)。しかし、債権者がこれに応じるかどうかはケースバイケースなので一律にどうとは言えません。特に元本の減額は一括繰り上げ返済をするような場合でなければ、通常は受け入れられません(一括で支払う代わりに少し負けてほしいという提案は債権者にも理解を得られやすいと思われますが、必ず認められるわけではありません)。

支払い計画を立てる際に最も重要なのは、「無理をしない」ということです。収入には変動があります。ずっと同じ職場で同じ条件で仕事を続けられるとは限りません。病気や事故で働けなくなることもあります。また、日常生活で急な出費が必要となることもあるでしょう。そのようなとき、ギリギリの支払い計画を立てていると、たちまち支払いができなくなります。実際に任意整理をした人で、後日債権者から「先月の支払いがありませんがどうなっていますか?」と問い合わせがくることは決して珍しくありません。特に計画を立てた時点では支払いを一時的に止めている(介入通知後、支払い計画を定めて実際に支払い始めるまでの間は、通常は支払いをストップしています)ので、余裕があると錯覚してしまうこともあります。くれぐれも無理をせず、ある程度余裕をもって払える額で支払い計画を立てるほうがよいでしょう。

【今後の予定】
債務整理③自己破産
債務整理④民事再生

2020年08月06日|HC通信(ブログ):弁護士 井 上   圭