■AV出演被害防止・救済法の概説-弁護士清水

 「性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律」(略称「AV出演被害防止・救済法」。以下では単に「法」と呼びたいと思います)が、2022年5月27日に衆議院を通過、6月15日に参議院で可決され、成立しました。その後、6月22日に公布され、6月23日より施行(罰則規定は別)されています。
 内閣府男女共同参画局公式ウェブページ(AV出演被害問題について - 内閣府男女共同参画局 (gender.go.jp))でも解説を見ることができますが、弁護士としての視点からもいくつか、Q&A形式で解説をしたいと思います。
 ただし、ここでは法律のさわりのみの紹介になります。経過措置等については膨大になるため解説していません。
 現実に法律問題に直面した場合は弁護士または男女共同参画局の設置する性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(電話番号 #8891)にご相談ください。

 

Q1. AVに出演するという契約書に署名・押印しました。しかし、やっぱり出演するのが嫌になりました。出演しなければいけませんか?

A. いいえ。出演の必要はありません。

 

Q1の解説:
 法第7条2項では、「……出演者は、出演契約に定められていた性行為に係る姿態の撮影であっても、その全部又は一部を拒絶することができる」と定められています。
 また法第13条1項、3項にも、「出演者は、任意に、……出演契約の申込みの撤回又は出演契約の解除をすることができる」とあります。
 これはつまり、「出演の契約をしても、出演を断ることができる」ということです。
 撮影前でも解除できますし、撮影後でも、AVが公表されてから1年(当面は2年)経つまでの間はいつでも解除できます。

 

Q2. AVに出演するという契約を解除したところ、業者から「ここまでの準備が無駄になり、損害が出た。弁償しろ」と言われました。弁償しなくてはいけませんか?

A.いいえ。弁償の必要はありません。

 

Q2の解説:
 先述の法第7条2項や第13条3項は、出演者の損害賠償義務を免除しています。
 そのため、法に基づいた解除や出演拒絶の場合、出演者は損害賠償の義務を負いません。


Q3.AVに出演することにしましたが、撮影中に嫌な行為をされないか心配です。「出演するけれどこの行為はしたくない」ということも可能でしょうか。

A.可能です。出演契約に「これをするよ」と書いてあったとしても、その一部を拒絶できます。

 

Q3の解説:
 先述の法第7条2項は「その全部又は一部を拒絶することができる」と規定しているので、行為の全部を拒絶しない場合でも、一部だけを拒絶することができます。

 

Q4. 出演契約をしてAVの撮影をしたのですが、やっぱり自分の映ったAVが出回るのは嫌です。止められますか?

A. 止められます。

 

Q4の解説:
 法第15条1項は、「出演者は、……出演契約の取消し若しくは解除をしたときは、その性行為映像制作物の制作公表を行い又は行うおそれがある者に対し、その制作公表の停止又は予防を請求することができる」と規定しています。
 そのため、出演契約を解除したうえで「私の出演したAVは公表しないでください」と請求することができます。

 

Q5. 私の出演したAVが公表されていますが、やっぱりこれ以上人に見てもらいたくありません。公表をやめてもらうことはできますか?

A. 出演契約がない場合や、出演契約を取消し・解除した場合、公表をやめてもらうことができます。

 

Q5の解説:
 先述の法第15条1項は、公表済みの場合にも「公表の停止」を規定しています。

 

Q6. 私の出演したAVは、撮影、編集、販売をそれぞれ別の業者が行っています。誰に対して公表の予防や停止を請求すればよいでしょうか?

A. それらすべての業者に請求することをお勧めします。そのために、アクセスしやすい業者に対し情報の提供を求めましょう。

 

Q6の解説:
 法第15条3項は、「制作公表者は、出演者が第一項の規定による請求をしようとするときは、当該出演者に対し、その性行為映像制作物の制作公表を行い又は行うおそれがある者に関する情報の提供、当該者に対する制作公表の停止又は予防に関する通知その他必要な協力を行わなければならない」と定めています。
 そのため、例えば撮影をした業者に情報提供を求めれば編集や販売をする業者の情報を得ることもできる可能性が高いでしょう。

 

Q7. 出演をやめたり、公表をやめてもらう場合、出演料は返さないといけませんか?

A. 最終的に返すことになる可能性が高いですが、業者側は「出演料を返さなければ公表を停止しない」とは言えないと考えられます。

 

Q7の解説:
 法第15条の差止請求権は解除に基づく原状回復義務とは別の法律関係であることから、出演料の返還と同時履行の関係に立たない可能性が高いです。
 そのため、まずは公表を停止してもらい、後からお金を返すという形も可能と考えられます。

 

Q8. 出演契約をしてAVの撮影をしたのですが、自分の映っているAVがどのようなものなのか気になります。公表前に見せてもらえますか?

A. 見せてもらえます。もし出来上がりが気に入らなければ、契約を解除できます。

 

Q8の解説:
 法第8条は、「制作公表者は、……公表が行われるまでの間に、出演者に対し、……公表を行うものを確認する機会を与えなければならない」と定めています。
 そのため、出演したAVは公表前に中身を確認することができます。

 

Q9. 出演契約をした相手から、「うちの契約書はこの法律と違う。法律よりも契約書が優先なので、契約書に従ってもらう」と言われました。従わないといけませんか?

A. いいえ。従う必要はありません。

 

Q9の解説:
 AV出演被害防止・救済法の条文はその大半が強行法規といって、契約より優先します。

 

Q10. AV出演被害防止・救済法は、売春を合法化するものですか?

A. いいえ。同法はこれまでに禁止されていた行為を合法化するものではありません。

 

Q10の解説:
 法第1条は「この法律は……性行為の強制の禁止並びに他の法令による契約の無効及び性行為その他の行為の禁止又は制限をいささかも変更するものではないとのこの法律の実施及び解釈の基本原則を明らかに」すると宣言していますし、法第3条3項は「この法律のいかなる規定も、公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為を無効とする 民法第九十条の規定その他の法令の規定により無効とされる契約を有効とするものと解釈してはならない」と規定しています。
 同法の成立により「合法化」された行為はありません。

 

Q11. AV出演被害防止・救済法は、個人で制作するいわゆる「同人AV」にも適用されますか?

A. されます。

 

Q11の解説:
 法は「性行為映像制作物」の「制作公表者」および「出演者」、「制作公表従事者」のすべてに適用されます。
 そのため、大手業者であるか同人であるかを問わず、AVを作る場合には法が適用されます。

 

Q12. ほかにAV出演のルールにはどんなものがありますか?

A.
①作品ごとの契約締結が必要(作品を特定しない契約は無効)
②契約書等の作成が必要(口頭での契約は無効)
③契約書の記載事項(AVであること、撮影の日時と場所、撮影の内容、性行為の相手、公表の方法と期間、公表者の名称等、報酬の額や支払時期等)
④制作公表者の出演者に対する書面での説明義務
⑤制作公表者の出演者に対する契約書の交付義務
⑥契約書と説明書面の両方が交付されてから1月経過までの撮影禁止
⑦撮影終了日から4月経過までの公表禁止
などです。

 

Q12の解説:
 このうち、⑤の契約書の交付や④の説明書面の交付をしなかった場合、には制作公表者には6月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金またはその両方が課されます。
 また、Q1でも触れた出演者の任意解除を妨げるために制作公表者が出演者をだましたり、脅したりした場合にも重い罰則があります。
 ただし、罰則については法の公布の日から20日を経過した日(6月22日公布なので、7月12日)からの施行になります。

2022年06月30日|HC通信(ブログ):弁護士 清 水 皓 貴