■年次有給休暇について~-弁護士松浪

 年次有給休暇は、労働者の心身の疲労を回復させ、労働力に維持培養を図るもとともに、ゆとりある生活の実現にも資するという趣旨で、労基法39条に規定されています。
 使用者は、業種、業態にかかわらず、また正社員、パートタイム労働者などの区別なく、一定の要件を満たしたすべての労働者に対して、年次有給休暇を与えなければなりません(労基法39条)。パートタイム労働者だから自分は有給がないとか、会社から有給はないと言われ勘違いしている方もいらっしゃるようですが、年次有給休暇は、要件を満たせば必ず発生します。そして、使用者は、労働者が年次有給休暇を取得したことを理由として、その労働者不利益な取り扱いをしないようにしなければなりません(労基法付則第136条)

 

★ 一定の要件とは?

 ① 雇い入れの日から6か月継続勤務
 ② 全労働日の8割以上出勤した場合

 上記の①と②を満たせば、年次有給休暇を付与されます。
 労基署のパンフレット等に記載されていますが、①は、事業場における在籍期間を意味し、実態に即して実質的に判断されますので、定年退職者嘱託社員として再雇用した場合などは、継続勤務として扱う必要があり、実質的に労働関係が継続している限り勤務年数を通算することになります(昭和63年3月14日基初150号)。
 また、②に関しては、業務上のけがや病気で休んでいる期間や法律上の育児休業や介護休業を取得した期間などは、出勤した日とみなして取り扱う必要があるとされています。会社都合の休業期間は、原則として、全労働日から除外する必要があります。

 

★ 何日もらえる?

① 通常の労働者の場合

 

② 所定労働時間が週30時間未満で、かつ、週所定労働日数が4日以下または年間の所定労働日数が216日以下の労働者

 

★ 繰り越せる?

 年次有給休暇の時効は2年ですので、前年度に取得されなった年次有給休暇は翌年度に与える必要があります。

 

★ いつとれる?

 基本的には、労働者の指定した日にとれます。
 ただし、その日年次有給休暇を与えると、事業の正常な運営が妨げられる場合は、使用者休暇日を変更する権利(時季変更権)が認められています。

 1日単位で労働者の指定した日にとることができるのが大原則です。しかし、周囲への気兼ねや、自己の業務の調整の難しさなどもあり、取得率が低いという問題があり、法改正や解釈などで、これらの問題を解消すべく、半日休や時間単位の取得が認められ、労使協定を結んで時季指定ができるよう計画的付与ができるようになりました。
 さらに、それでも取得率がなかなか上がらない状態を解消するため、2019年4月には、年10日以上付与される労働者に対し、年5日の年休を労働者に取得させる義務が定められました。
 制度が複雑化し、理解しづらくなってきた面もあるようです。これらの制度を簡単に説明したうえで、最後に2019年4月に施行された年5日の年休を取得させる使用者の義務について説明したいと思います。

計画年休:労使協定を結べば、計画的に年次有給休暇取得日を割り振ることができます。ただし、労働者自ら請求取得できる年次有給休暇を最低5日残す必要があります。
 
半日単位年休:労働者が希望して時季を指定し、使用者が同意した場合であれば、1日取得の阻害とならない範囲で、半日単位で休暇を与えることが可能です(平成21年5月29日基発0529001号)。
 
時間単位年休:労使協定を結べば、年に5日分を限度として、時間単位で年次有給休暇を与えることが可能です。

 

★ とらせなければならない?~使用者の義務

 先に記載しましたが、2019年の法改正により、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対しては、そのうち5日について、使用者が時季を指定して取得させなければならなくなりました。基準日(年次有給休暇を付与した日)に年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者が対象で、基準日に付与されるのは7日だけど前年からの繰り越し分を含むと年10日以上になるという労働者は対象ではありません。
 使用者は対象労働者に、少なくとも5日は、基準日から1年以内に消化させることになくてはなりません。労働者にとってみたら、使用者に勝手に時季を決められて無理やり取らされるのでは、困りますね。
 使用者は、取得時期についての労働者の意見を聴取したうえでできる限り労働者の希望に沿った取得時期になるように尊重しなければなりません。意見の聴取は、面談でもメールでも任意の方法で構いません。また、すでに5日以上の年次有給休暇を請求取得している労働者に対しては、使用者は時季指定をする必要はなく、また、することもできません。
 ①労働者自らの請求・取得、先に説明した②計画年休、③使用者による時季指定いずれかの方法で取得させた年次有給休暇の合計が5日に達した時点で、使用者からの時季指定はできなくなるのです。
 使用者は、年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存する必要があります。また、休暇に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項(労基法89条)ですので、使用者による年次有給休暇の時期指定を実施する場合は、時季指定の対象となるためる労働者の範囲及び時季指定の方法等について就業規則に記載しなければなりません。


~実務で使う場合
★ 使用者からの時季指定はいつする?

 これについては、苦慮される会社も多いのではないかと思います。方法については定められているわけではありませんので、基準日に労働者の意見を聴取したうえで定めることでも構いません。そのほか、基準日から半年経過後に年次有給休暇の請求・取得日数が5日未満の労働者を対象として意見を聴取したうえで指定していく方法が考えられます。
 計画年休の制度を活用する方法も考えられます。例えば、企業や事業所単位で同じ日に一斉付与したり、班やグループごとに交代で付与する、個人別に本人や家族の誕生日、結婚記念日に取らせるようにするなどで、」計画年休の制度を使うと労務管理がしやすいというメリットもあります。
 なお、年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合、使用者による時季指定を行う場合において、就業規則に記載していない場合などに使用者側に罰則規定があります(労基法120条)。

詳しいことは、厚労省のリーフレット等にも記載がありますので、参考にしてみてください。

 

2023年12月06日|HC通信(ブログ):弁護士 松 浪   恵