■Q&A不動産の豆知識(定期建物賃貸借)-弁護士伊藤

Q 定期建物賃貸借契約の締結には,賃貸借契約書とは別に定期賃貸借契約であることを説明する書面の作成が必要なのですか?

A 最近の最高裁判例を踏まえると,賃貸借契約書とは別に定期賃貸借契約であることを説明する書面の作成が必要ということになります。

【解説】

1 定期建物賃貸借とは

 「定期建物賃貸借」(定期借家)とは,契約で決めた賃貸借期間の満了により,契約が更新されることなく終了する建物賃貸借契約のことをいいます(借地借家法38条)。

 通常の建物賃貸借(普通借家)では,賃貸人に「正当の事由」がなければ契約の更新を拒絶することができません(借地借家法28条)。そのため賃貸人は,一度建物を賃貸すると,賃貸借契約を終了させることはなかなか難しくなります。そこで,賃貸人が一定の期間は建物を貸したいけれども,その期間が終了したら確実に建物を明け渡してほしいという事情がある場合には,「定期建物賃貸借契約」を活用するとよいでしょう。


2 定期建物賃貸借には説明書面が必要

 定期建物賃貸借契約を締結する場合には,「建物の賃貸人は,あらかじめ,建物の賃借人に対し,・・・契約の更新がなく,期間満了により当該建物の賃貸借は終了することについて,その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない」(借地借家法38条2項)とされています。この説明がなかった場合には,契約の更新がないこととする定めは無効となり(同条3項),普通借家契約として扱われます。

3 最近の最高裁判例

 では,この説明書面は,賃貸借契約書と別に作成することを要するのでしょうか。

 この点,最近の最高裁判例では,「法38条2項所定の書面は,賃借人が,当該契約に係る賃貸借は契約の更新がなく,期間の満了により終了すると認識しているか否かにかかわらず,契約書とは別個独立の書面であることを要する」と判断されています(最判平成24年9月13日 ※1)。

 その理由として,借地借家法38条1項とは別に2項がおかれた趣旨は契約の更新の有無に関する紛争を未然に防止することにあり,そのような趣旨からして,説明書面の交付は,個別具体的な事情を考慮することなく,形式的,画一的に取り扱うのが相当であると説明されています。

 この裁判例は,賃貸人が賃借人にあらかじめ定期賃貸借契約書の「原案」を送付し,賃借人がその内容を検討した後に,定期建物賃貸借契約書を取り交わした事案についてのものでした。しかし,最高裁は,この定期建物賃貸借契約書の「原案」は,定期建物賃貸借契約書と別個独立の書面ということはできないと判断しています。

4 説明書面とは

 この説明書面は,賃借人に定期借家であることを十分に認識させることのできるものであることが必要となります。
宅地建物取引業者が建物賃貸借を仲介する場合には,取引主任者が重要事項説明書を交付して説明することとなりますが(宅建業法35条),仲介業者が賃貸人から代理権を付与されており,重要事項説明書に当該賃貸借契約の更新がなく,期間満了により契約が終了する旨が記載されていれば,その重要事項説明書をもって借地借家法38条2項の説明書面と認めることができると思われます。

※1 最高裁民事判例集66巻9号3263頁,裁判所時報1563号5頁。
裁判所ウェブサイト
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/539/082539_hanrei.pdf

2017年02月23日|HC通信(ブログ):弁護士 伊 藤 敬 史