弁護士に案件を依頼する場合、最も大切なことは委任契約書を作成することです。あなたは「契約書を作って下さい。」と言うべきです。そして、この申し出を快く受けない弁護士は断りましょう。
契約書の案文は持ち帰り、よく検討してから調印することをお勧めします。弁護士に相手方の非違行為を訴えるあなたは、怒りのために冷静さを欠いていることがあるからです。直ぐに取り掛かってもらいたいとの気持も強いでしょうが、後に弁護士とトラブルを起こさないためにも、契約内容をじっくり考える必要があります。頼りにした弁護士とのトラブルは、依頼案件よりも精神的に大きな苦痛を与えることがあるのです(笑えませんが、本当です)。
委任契約書には、弁護士費用と依頼の範囲を、できるだけ具体的に明記してもらうべきです。弁護士費用と言っても、着手金や報酬、あるいは出張等の日当、そして印紙や資料の取り寄せ、交通費などの実費があります。可能な限り明細を求めましょう。
委任の範囲については、交渉で済むことか、裁判など法的手続が必要かで大きく違ってきます。裁判にしても一審、控訴審、上告審と三審制ですから、どこまでが委任の範囲かを確認する必要があります。裁判の前の保全手続あるいは判決後の強制執行も、事案によっては委任することになります。分割払いで和解が成立した場合には、毎月の回収事務は誰が行うのかという問題も残ります。
次に、報酬はどの時点で支払うのかを確認することも大事です。勝訴判決が言渡された段階で支払うのか、それとも判決に基づいて実際に満足(請求の実現)を受けた後でよいのかは、あなたにとって重要な関心事でしょう。
ところで、私も含めて古いタイプの弁護士の中には、「医者の不養生」よろしく契約書を作らない横着者もいます。受任段階では方針が定まらず、何をどこまでやるのかが明確ではないと言い訳して、受任の範囲も弁護士費用の内訳も確定できないと弁解するのです。明確にしたくても実際には不可能なこともありますが、それでもあなたは、納得できるまで説明を求めるべきです。遠慮する必要はありません。「私を信用して下さい。私の弁護士費用は他より安いから、ぼることは絶対にありません。」。あなたは平然とこのようなことを言う弁護士を信じますか。
依頼者と弁護士費用(報酬)をめぐるトラブルが発生すると、委任契約書を作成していない弁護士は、そのことによる不利益を被ります。一般的に報酬はこの程度であるとか、口約束ではあるが報酬額は決まっていたと説明しても、そのような弁解は弁護士会の然るべき機関では通用しません。
そうです。よくよく考えると、契約書の作成を勧めるのは、あなた(依頼者)を守るためだけではなく、弁護士を守るためだったのです(オチ)。