■Q&A不動産の豆知識(定期建物賃貸借 その2)-弁護士伊藤

Q 私は,2000年(平成12年)1月から,2年間の契約期間で所有建物をAさんに賃貸して,更新しています。この契約をAさんと合意解約して,新たに定期建物賃貸借契約に切り替えることは可能でしょうか?

A 現在(※1)の法制度のもとでは,2000年3月1日より前に締結された居住用の建物賃貸借契約を定期建物賃貸借契約に切り替えることは,賃借人との合意があったとしても,認められていません。

【解説】

1 定期建物賃貸借とは

 「定期建物賃貸借」(定期借家)とは,契約で決めた賃貸借期間の満了により,契約が更新されることなく終了する建物賃貸借契約のことをいいます(借地借家法38条)。
 通常の建物賃貸借(普通借家)では,賃貸人に「正当の事由」がなければ契約の更新を拒絶することができません(借地借家法28条)。そのため賃貸人は,一度建物を賃貸すると,賃貸借契約を終了させることはなかなか難しくなります。
 そこで,賃貸人が一定の期間は建物を貸したいけれども,その期間が終了したら確実に建物を明け渡してほしいという事情がある場合には,「定期建物賃貸借契約」を活用するメリットがあります。
 

2 普通借家から定期借家への切り替えは認められる?

 では,これまで契約の更新を前提にした普通借家契約を締結していた場合に,これを定期借家契約に切り替えることは認められるでしょうか。
 定期借家を認める法制度は,2000年(平成12年)3月1日から施行されました。
 この制度が設けられる際,これまでの普通借家を定期借家に切り替えることを認めるべきかどうかが議論されました。その結果,それまで普通借家権で保護されてきた居住者の利益に配慮して,「2000年3月1日よりも前」に締結された「居住用建物賃貸借」については,「当分の間」,定期建物賃貸借への切り替えを認めない内容の「附則」が設けられました(※2)。
 この附則の適用を受ける場合には,普通借家から定期借家への切り替えは,賃借人の同意があったとしても,認められないことになります。

 

3 チェックポイント

ここでのチェックポイントは3つです。

(1)最初の賃貸借契約の時期はいつか?

 上記附則の規制を受けるのは,最初の契約が「2000年3月1日よりも前」に締結されて更新してきた居住用建物借家契約です。
 逆にいうと,最初の契約が「2000年3月1日以降」に締結された場合には,賃借人との合意により,従来の普通借家契約を終了させて定期借家契約に切り替えることもできることになります。


(2)建物の用途は何か?

 上記附則の規制を受けるのは,「居住用建物」の借家です。
 逆にいうと,「事業用建物」であれば,賃借人との合意により,定期借家への切り替えが認められることになります。これは,居住用建物の場合には,生活基盤としての住居の重要性があるため,賃借人を保護するという趣旨によります。そのため,例えば,「店舗兼住宅」であれば,生活基盤としての住居の保護の必要性がありますので,定期借家への切り替えが認められないことになります。


(3)「当分の間」はいつまでか?

 上記附則の規制は「当分の間」適用されると定められています。では,「当分の間」とはいつまでなのでしょうか。
 平成11年の改正時には,施行後4年を目途として居住用建物賃貸借のあり方を見直すという見直し条項が入れられたため,当時は4年程度という解釈論もありました。
 しかし,その後,この点についての改正がなされないまま現在に至っています。したがって,2019年11月の時点では,2000年3月1日よりも前に締結された居住用建物の賃貸借契約については,定期建物賃貸借契約への切り替えが認められないものと考えられます。


4 定期借家への切り替えが認められる場合

 ご質問のケースとは異なりますが,事業用建物や,居住用建物でも最初の契約が2000年3月1日以降に締結された場合には,賃借人との合意があれば,定期借家への切り替えが認められることになります。
 もっとも,賃借人との合意の効力が後で争われるリスクもありますので,定期借家への切り替えにあたっては,切り替えの前後で何が変わるか等を賃借人に十分に理解してもらえるよう説明するなど,慎重に進める必要があるでしょう。


(伊藤 敬史)


※1 2019年11月現在
※2 平成11年改正附則第3条
「第5条の規定の施行前にされた居住の用に供する建物の賃貸借(旧法第38条第1項の規定による賃貸借を除く。)の当事者が、その賃貸借を合意により終了させ、引き続き新たに同一の建物を目的とする賃貸借をする場合には、当分の間、第5条の規定による改正後の借地借家法第38条の規定は、適用しない。」

2018年12月10日