■預貯金の相続について②―相続法改正による預貯金の仮払制度について-弁護士小笠原

1 2018年7月に民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律が成立し,7月13日に公布されました。
 これにより,亡くなった被相続人の配偶者が引き続き被相続人の家に住み続けられるための配偶者居住権保護制度(短期・長期)が新たに創設されたり,自筆証書遺言について全文を自書しなければならないとの要件が一部緩和されたほか,遺留分の効果や相続の対第三者対抗力など,相続に関する様々なルールが変更になりました。
 改正された制度が実際に施行されるのは上記公布日から1年以内の政令で定める日(未定)です。ただし,自筆証書遺言の要件緩和は2019年1月13日,自筆証書遺言の公的機関における保管制度や配偶者居住権保護制度は公布の日から2年以内の政令で定める日(未定)に施行となります。

2 今回の相続法改正により,預貯金の仮払制度が設けられました。
 一般に,被相続人が亡くなったあと,葬儀費用や生前の被相続人の債務(入院費用など),さらに残された家族の生活費の支払い等で,遺産分割が完了する前であっても,被相続人の残した預貯金の払い戻しを受ける必要がある場面があります。
 しかし,2018年3月20日付けの当コラムで解説したとおり,金融機関は被相続人が亡くなったことを覚知した後は原則として単独の相続人からの払戻には応じていませんでした。さらに,平成28年の判例変更によって,共同相続された預貯金は相続開始と同時に当然分割されるのでなく,相続人全員によって準共有されることとなり,理論上も,相続人一人一人が単独で被相続人名義の預貯金の払戻しを受けることはできず,相続人全員による遺産分割が完了してからでないと払い戻しを受けられないことになりました。
 この問題について,上記判例変更を行った最高裁判決には,「仮分割の仮処分を活用することが考えられる」という補足意見も付されていました。しかし,仮分割仮処分には「急迫の危険を防止するため必要がある」との要件があり,実際に活用するにはハードルが高いものでした。
  そこで,上記の必要に対応できるように,本改正によって,
(1)預貯金の一定割合までは単独で支払いを受けられる制度が設けられ,
(2)それを超える分についても,必要がある場合には家庭裁判所の判断で仮払いを認めることができるよう,仮分割仮処分の要件を緩和する規定が設けられました。

3 (1)について,具体的には,現行民法第909条の次に,以下の条文が追加されます。これにより,当該預貯金額のうち,当該相続人の法定相続分の3分の1に相当する額(ただし政令による上限額あり)までは,各相続人が単独で権利行使できるようになります。
  たとえば,被相続人が亡くなり,その夫(法定相続分2分の1)と子2人(法定相続分各4分の1)がいる場合に,被相続人名義の預貯金300万円があったとすると,夫は300万×(1/3)×(1/2)=50万円まで,子どもは各300万×(1/3)×(1/4)=25万円ずつまで,それぞれ単独で金融機関に行って払い戻しを受けることができるようになります。

第九百九条の二 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。

4 (2)について,具体的には,現行家事事件手続法第200条第2項の次に,第3項として,以下の条文が追加されます。これにより,同条第2項の仮分割仮処分の要件(事件の関係人の急迫の危険を防止する必要があること)が緩和され,①遺産分割調停又は審判の申立をしたこと,②預貯金を払い戻す必要性,③他の共同相続人の利益を害さないこと,という要件で仮分割仮処分が認められることになります。
 要件が緩和されたとはいえ,家庭裁判所に遺産分割の申立てを行った上で別途仮処分申し立てを行い,必要性等について説明を尽くさなければならないので,簡単・便利に使えるものになったと言えるかは未知数ですが,真に必要がある場合には活用を検討する価値があります。

3 前項に規定するもののほか、家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権(民法第四百六十六条の五第一項に規定する預貯金債権をいう。以下この項において同じ。)を当該申立てをした者又は相手方が行使する必要があると認めるときは、その申立てにより、遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部をその者に仮に取得させることができる。ただし、他の共同相続人の利益を害するときは、この限りでない。

※なお,上記条文中の「民法466条の5」とは,平成29年の債権法改正による改正後の条文(本コラム執筆時点では未施行)であり,同条第1項に規定する預貯金債権とは「預金口座又は貯金口座に係る預金又は貯金に係る債権」のことです。

5 改正相続法の施行は,冒頭で述べたとおり,原則として2019年7月12日までの政令で定められる日です。改正された各制度が適用されるのは,原則として施行日以降に発生した相続であり,施行日以前に被相続人が亡くなられていた場合には対象となりません。
 ただし,上記(1)の仮払制度に関しては,次の条文(改正法の附則第5条第1項)によって,施行日前に発生した相続についても適用されます。したがって,被相続人が亡くなられたのがいつであっても,改正相続法が施行された日以降であれば,単独で預貯金額の一部について金融機関で払い戻しを受けることができます。

”第五条 新民法第九百九条の二の規定は、施行日前に開始した相続に関し、施行日以後に預貯金債権が行使されるときにも、適用する。”

6 以上のとおり,特に(1)の制度の新設により,相続された預貯金の払い戻しの問題はある程度解消される場面も出てくると思いますが,金融機関で実際にどのように取り扱われることになるか等,今後の実務運用に注視していく必要があります。

参考リンク
法務省:民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案
http://www.moj.go.jp/content/001253488.pdf

(小笠原 友輔)

 

 

2018年11月14日