■相談者・依頼者との関係について心掛けていること-弁護士並木

 私ども弁護士は、相談者を事務所にお迎えして相談や案件の打合せをしています。自宅への訪問や会社に出向くこともありますが、少ないのが実情です。

 ところで、個人的な案件の相談を受けた場合、特に初めての方であれば、相談者の家庭の事情が気になることがあります。主に配偶者との関係です。会社関係の方であれば、経営者や上司やということになります。

 

 個人の場合、私は「相談事とは関係ないのですが」と断ったうえで、「いま、奥さんとの関係は如何ですか。円満ですか?」と話を向けることがあります。家族には関係しないトラブルでも、本人のストレスは身近な家族に伝播するからです。お互いを思いやる気持を忘れて、些細なことで夫婦喧嘩が起きてしまうことがよくあります。

 そのような様子が窺われるケースでは、「近いところで、奥さん(配偶者)と一緒に事務所に来てください。」と伝えています。いま抱えているトラブルよりも家庭の平和の方が大切なことが多いからです。これは医師が重い病気をもった患者に、家族を同席させたうえで病状と治療方針を説明することと似ています。配偶者にもトラブルの現状と解決方法を理解してもらって、少しでも安心感を与えることにより、夫婦間の無用のトラブルが回避できると考えて実践しています。配偶者も専門家の意見を聞いて解決への道筋がみえてくれば、二人の間に本来の助け合う気持ちが生まれてくる筈です。

 私のアドバイスに対し、妻には隠したいと答える方や、隠し事はしいないが家族は巻き込みたくないと反対される方もあります。無理強いできることではありませんが、それでも説得を試みます。

 

 会社の場合には、上司や経営者との関係が分からないまま相談を受けているときに不安を感じることがあります。相談に来られた方の社内的な立場が十分に見えないときには、不利な事実を正直に話をしてくれているのだろうか、会社に持ち帰って正確に報告されるだろうか、都合の悪い見解もキチンと伝えられるのだろうか、といったことです。たかが相談ですが、このような心配があるときには対応を考えさせられます。

 

 もう一つ、私が相談者との関係で心掛けていることがあります。

 それは、紛争の問題点や解決の方向などを説明し理解してもらったと思ったときでも、相談者の理解は直ぐに怪しくなり肝心なことを忘れてしまうということ、一週間もすると白紙になってしまうという心配です。医師から、病状とその治療方針を具体的に聞いときも同じではないでしょうか。説明を受けたときには理解したつもりでも、家に帰って家族に説明するときには不正確になるものです。法律や医療に限らず専門的な領域のことは、どんなに優しい言葉で丁寧に説明されても、本当のところは理解できないからです。

 ここから教訓です。相談者の方は、同じことを何度も聞いては失礼ではないかと遠慮する必要はありません。私ども弁護士としても、そのことは説明済み、理解してもらっている軽信すると、その後の対応を間違ってしまう危険性が潜んでいるからです。常に依頼者と二人三脚で解決に向けて進んで行かなければならないことを自戒する必要があります。

(並木 政一)

2020年10月02日